はじめに
「after the line」は、カポ5のストラトで組んだギターインストです。
ロックの文脈のまま、少しだけ闇側に寄せたような、ダークな夜向きの1曲になりました。
今回は、S-Gear と Addictive Drums 2 を中心に、
低音の推進力と、開放弦が残す独特の余韻をどうまとめたかを、振り返りながら書いています
▲ Bandcamp のプレイヤーを置いています。
よかったら「after the line」を流しながら読んでもらえるとうれしいです。
夜の線を越えるイメージ
タイトルの「after the line」は、
夜の闇の中で、どこかのラインをまたいでいくイメージからつけた。
夜の闇に落ちるような絶望ではなくて、
ヘッドライトの先だけを見ながら、
それでも少しずつ前ににじり出ていくような、静かな推進力。
曲全体の軸はマイナーキー寄り。
ただ、最後は CM7 で終わらせた。
暗さを引きずったまま、それでも少しだけ光の側に体重を残したかったので、
あえて「きれいな終わり方」を許している。
カポ5のストラトと、開放弦だらけのコード
今回のギターは、ストラトにカポ5という組み合わせ。
カポ5は単純に鳴り方が気持ちいいので、前からよく使っている。
そこに、かなり開放弦を絡めた。
たとえば、
- Bm7 に 1弦と4弦の開放を足したようなコード
- Fm(maj7,13)、Gm13 みたいなテンション多めの響き
- ベースノートだけ動かしつつ、1弦や4弦、時に3弦を開放で鳴らし続ける進行
そんな具合で、「まともなコード」の方が少ないくらいだ。
理論的にきれいに説明するつもりはあまりなくて、
指板の上で鳴らしてみて「これは気持ちいい」と思った形を、そのまま信用してつないでいる。
展開では 10フレット付近にポジションを移し、
同じ発想を D 系のフォームでなぞる場面もある。
コード単体で見るとかなり変態寄りだが、
進行そのものは イントロ → A → サビ → 展開 → アウトロ という、
わかりやすいロックの枠からは外していない。
イントロの四つ打ちと、グルーヴの違和感
イントロはキックの四つ打ちから入る。
そこから通常の 8 ビートに切り替わるのだが、作っている途中で、
「バースに入った瞬間、急にテンポが落ちた気がする」
という違和感がけっこう強く出た。
原因は、ベースの 2拍目と 4拍目に入れていたゴーストノートが、
ほんの少し“後ろブレ”していたことだった。
イントロのキックは前ノリ気味に置いていたので、
そこで体感テンポが決まってしまっている。
その状態でバースの 2・4 だけがタメ気味だと、
そこの瞬間だけブレーキを踏まれたように感じてしまう。
最終的には、
- ゴーストの位置を少しグリッド寄りに寄せる
- ベロシティを落として主張を弱める
このあたりで折り合いをつけた。
「完璧な正解位置を見つけた」というより、
自分の耳がギリギリ納得できるラインまで寄せて、そこで止めている。
実際はギターのノリも関係しているかもしれない。
それこそ突き詰めると無限に悩みが湧いてくる。
S-Gear と物理ペダルで作ったリード
アンプシミュレーターは S-Gear。
最初は「S-Gear 単体だと、どうしても物足りない」と感じていたが、
手持ちの物理ペダル(今回はOCD 1.4 )をフロントに噛ませることで、一気に化けた。
- アルペジオ用のトーンには、揺れもの(フェイザーやコーラス)を薄く
- リードは基本ドライ寄りにして、
リバーブとディレイは“空気を足す”程度のポジションにとどめる
そんなバランスにしている。
ディレイは付点 8 分だけでなく、付点 4 分も試した。
ただ「やってます感」をあまり前に出したくなかったので、
最終的にはテンポに合わせたシンプルな設定に落ち着いた。
リバーブも同じで、最初はアンビエント寄りに深めにかけていたが、
リードの輪郭がぼやけすぎるので、
曲頭はやや深め、後半に向けて少しドライ寄りに寄せていく方向で調整している。
Addictive Drums 2 と、パラアウトの沼
ドラムは Addictive Drums 2 の Fairfax Vol.1。
MT Power Drum Kit から乗り換えたところ、
音の手触りとベロシティの反応が良すぎて、
ここがいちばん時間を溶かした場所になった。
- イントロのフィルを延々 4〜5時間いじる
- クラッシュを 1 と 3 に置くか、2 と 4 に置くか迷う
- ライドの tip / shaft / bell を場面ごとに差し替えてみる
- 裏ハットはフットクローズで刻み続けるか、あえて抜くか
こういう細かい部分で、いくらでも遊べてしまう。
途中からは「どこで『ここでいい』と線を引くか」がテーマになっていた。
途中でパラアウトにも手を出した。
AD2 側で各パーツを別アウトに設定し、REAPER 側でバスを組み直して、
- キック
- スネア
- OH
- Room
あたりだけ個別に EQ。
ハットやタム類は、今回はあえてほとんど触っていない。
パラアウトした瞬間に音量感が変わって、
「割れているように聞こえる」問題にもぶつかったが、
ある程度は仕様と割り切って、
最終的にはマスター側のリミッターでトゥルーピークを見ながら整えた。
ミックスでやったこと、やらなかったこと
今回は、最初に「コンプで整えすぎない」という方針を置いた。
各トラックの EQ は「キャラ作り」よりも、ぶつかる帯域を避けるための調整が中心。
余計な主張を足すのではなく、当たっている場所だけを少し避けて、全体の見通しを作るイメージだ。
コンプレッサーも、挿すとして必要最小限にとどめた。
特にリードは、コンプを強くかけたり、フレーズごとにクリップゲインをガッツリ下げたりすると、演奏の熱がすぐに飛んでしまう。
実際に「個別にクリップゲインを下げる」「問題のフレーズだけコンプを強めにかける」といったことも一通り試したが、どれもニュアンスのほうが犠牲になる感覚が強かった。
最終的には、細かく“矯正”するのをやめて、
「でかいところも含めて、これが自分の演奏仕様」
だと割り切り、全体の音量感だけを揃える方向に落ち着いている。
一見、詰め切っていないようにも見えるが、いまの自分にとっては、演奏の生気を残すという意味で、いちばんしっくりくる選択だった。
マスターでは、サチュレーションを薄くかけて全体の密度を少し上げたうえで、
リミッターでラウドネスをおおよそ -12 LUFS、トゥルーピークを -1.5 dB 付近に揃えている。
商業音源と比べればまだ余白はあるが、今回は「音の塊としてぶつかってくる感覚」と、自分のピッキングのニュアンスが生きていることを優先した。
今出せる限界としての一本
この曲には、かなりの時間がかかった。
ドラムだけで一日が溶けた日もあるし、
ベースとキックの位置関係を、数ティック単位でいじり続けた時間も長い。
正直、「ここまでやる意味はあるのか」と思う瞬間もある。
再生数が跳ねるわけでもないし、
誰かに褒めてもらうためにやっているわけでもない。
それでも、
ギターと DAW に向き合っているときにしか出てこない感覚があって、
そこにしか得られない充足した時間がある。
今回の「after the line」は、
仕事や日常のノイズを削ってでも注ぎ込みたいと思えたエネルギーを、
いったんここで形にして外に出した一本だと思っている。
完璧だとはまったく思っていない。
耳をフラットに戻せば、いくらでも手を入れたくなる場所はまた見えてくるはずだ。
それでも、どこかで「もう手放す」と決めないと、
永遠に次の曲には進めない。
この曲は、いまの自分にとっての
「ここまでは出し切れた」と言えるラインの記録として、
ここに置いておく。
おわりに
「after the line」は、
夜のドライブや、部屋の灯りを少し落とした時間に合うような、
ダーク寄りのロックインストになった。
ここまでいろいろ書いたけれど、
聴き手にとっては、作り方の細かい話はどうでもいいかもしれない。
ただ、「何か引っかかる」「なぜかもう一度だけ聴きたくなる」
そんな一点がどこかに残れば、それで十分だと思っている。
どこかの夜の線をまたぐタイミングで、
ふと思い出してもらえたらうれしい。
🎧 この曲を含む音源はこちら
▶ 孤岳 – Kogaku Bandcamp アーティストページ



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