はじめに
二十年ギターを弾き続けてきて、
ようやく「自分の曲」を完成させて、世界に出した。
曲のタイトルは「Quiet Step」。
前半は静かな指弾きのアルペジオ、
後半はギター、ベース、ドラムが一気に立ち上がるはじめに
DTMを本格的に触りはじめて、まだ一か月ほど。
無料のプラグインとREAPERだけで、
ミックスとマスタリングまで自分でやった。
ここでは「正しいやり方」ではなく、
僕が実際にぶつかった壁と、どうやって抜けていったかだけを書いておく。
次の曲を作るときの、自分へのメモも兼ねて。
▼この記事で書いている、最初の一曲「Quiet Step」です。
まだ少しラフで、整いきってはいないけれど、今の自分が出せた素直な音としてここに置いておきます。
よければ、再生しながら読んでもらえたらうれしい。
ベースが遅れて聞こえる理由を、耳で学んだ
最初につまずいたのは、ベースだった。
DAWの中で再生しているぶんには、特に違和感がない。
けれど、mp3に書き出して別の環境で聴くと、
静かなパートで、ベースだけ「もたって」聞こえる瞬間がある。
原因は単純で、
キックとベースのアタックが、微妙にずれていた。
静かなアルペジオの裏で、
低音のタイミングが少し遅れるだけで、
「ベースが遅れている曲」という印象になる。
目立つのは、むしろ派手なところより静かなところだ。
やったことは地味で、ひとつだけ。
- ベースのMIDIノートを、キックのアタックより
気持ち「前」に寄せていく。
ノートを一個ずつ、グリッドを見ながら少し前へ。
特に最初の一音は、ほんの少し早いぐらいでもちょうどいい。
結果として、「遅れて聞こえる感じ」はかなり薄くなった。
打ち込みのベースは、
「見た目の位置」ではなく「耳で決まる」ことを、ここでひとつ覚えた。
後半だけ割れるリミッターと、パンニングの話
次にぶつかったのは、リミッターだった。
曲の後半、
ギターが三本重なり、ベースとドラムも全開になるところで、
リミッターを挿すと、どうしても音が割れる。
- リミッターのゲインを上げる
- スレッショルドを下げる
どちらに振っても、後半で「ビリッ」と来る。
マスターのメーター上は赤くなっていなくても、耳が痛い。
ここで気づいたのは、
「センターに詰め込みすぎていた」ということだった。
そのときの配置は、ざっくりこんな感じ。
- リードギター:センター
- アルペジオ:センター寄り
- コード:センター寄り
- ベース:センター
- キックとスネア:もちろんセンター
全部、真ん中で殴り合っていた。
ここで、思い切ってパンを広げた。
- リード:センター
- アルペジオ:右に 20〜30
- コード:左に 20〜30
これだけで、同じリミッター設定でも、
音割れの余地がかなり減った。
最終的には、
- リミッターのゲイン:+0.5dB
- スレッショルド:-3dB
このあたりでも、後半が割れずに通るようになった。
パンニングは「広がり」のためだけじゃない。
マスターで潰れずに済むための、純粋な物理的余裕でもある。
それを、身をもって知った。
LUFSとTrue Peakは、耳のあとに見る
途中で、ラウドネスとピークも測ってみた。
- LUFS(曲全体):-15.3
- True Peak:約 -2.6 dBTP
今どきの配信基準でいえば、
Spotifyあたりの目安である -14 LUFS より少し静かだ。
数字だけ見れば、
「あと1〜2dBは上げられるかもしれない」とも言える。
けれど、マスターフェーダーをこれ以上上げると、
ギターの高域が「ひりつく」感じがどうしても出てくる。
そこで決めた。
- LUFSは「目安」にする
- 天井は、耳が「ここまで」と言ったところに置く
静かな前半と、膨らむ後半。
そのコントラストを残したかったから、
無理に「市販音源」に寄せるのはやめた。
ラウドネスは、
「聞きやすさ」より「らしさ」が崩れない範囲で見る。
最初の一曲は、それぐらいでちょうどいいと感じた。
余弦ノイズと、完璧じゃない音の扱い方
一番悩んだのは、ギターの余弦ノイズだ。
コードチェンジのときに、
一瞬だけ低音弦がベロンと鳴る。
ライブなら気にも留めないレベルのノイズ。
でも、録音でじっと聴くと、そこだけ浮いてくる。
試したことは三つ。
1.アイテムを切り出してフェードをかける
- 該当箇所だけ切り出して、
フェードイン・フェードアウトを調整。 - 深くかけると、肝心のアルペジオが消えてしまう。
- 浅いとノイズが残る。
「ちょうどいい」がなかなか見つからない。
2.EQで一瞬だけ低域を削る
- オートメーションで、その瞬間だけローカットを深く入れる。
- ノイズは薄くなるが、
伴奏そのものの「厚み」も少し痩せる。
3.録り直す
- 試してみても、別の場所で別のノイズが出る。
- 完全に無菌なテイクは、結局撮れない。
最後は、こう判断した。
「これはもう、この曲の“生っぽさ”として残す」
Boseのスピーカーで集中して聴けば気づくけれど、
スマホやテレビのスピーカーで
普通に流すだけならほとんど分からない。
録音作品としての「綺麗さ」と、
ギタリストとしての「現実の手触り」。
その真ん中あたりで手を打つ、
という感覚を、ここで初めて持てた気がする。
マスターリバーブは、あえてかけないことにした
「マスターに薄くリバーブをかけた方がまとまるのでは」
一度はそう考えた。
MT Power DrumKit は比較的ドライな音で、
ギターは実機で薄くリバーブをかけているだけ。
全体にふわっとリバーブをかければ、
「製品感」が出るような気がした。
けれど、試してみると、
この曲の「近さ」が少し濁ってしまう。
- 静かな指弾きが、余計に奥に引っ込む
- ドラムのアタックがぼやける
- ギターの生っぽさが抑え込まれる
結果として、
マスターリバーブは「なし」 にした。
- ドラムはドラムの空気
- ギターはギターの空気
それぞれの距離感を保ちながら、
ミックスの中でバランスを取る。
完璧な「商品感」より、
今の自分の演奏がそのまま見えるほうを選んだ。
再生環境ごとの「顔つき」の違い
何度も聴き直したのは、
DAWの中だけじゃない。
- テレビのスピーカー
- スマホ単体
- ボーズのスピーカー
- モニターヘッドホン
- 車のスピーカー
それぞれで、同じ曲がまったく違って聞こえる。
- テレビでは、ベースがしょぼく感じる
- スマホでは、余弦ノイズはほぼ分からない
- Boseでは、ベースのニュアンスとノイズがよく見える
- ヘッドホンでは、全部が丸見えになる
ここで決めたのは、
どこか一つの環境で「100点」を目指すのではなく、
どこで聴いても「70点くらいで破綻しない」ことだった。
最初の一曲で欲張らない。
「全部そこそこちゃんと聴ける」ラインで止める。
それが今の僕の現実的な着地だった。
無料プラグインと、最初のミックスの意味
今回の曲は、
アンプシミュレーターもドラム音源も、基本は無料版だ。
お金をかけていないぶん、
ミックスとマスタリングの甘さは、
正直、自分でも分かる。
でも、ここまでやってみて思うのは、
「機材より先に、耳と判断を育てる時間が必要だ」ということだ。
- どこでパンを広げるか
- どこで音圧をあきらめるか
- どこまでノイズを許容するか
- どのデバイスを基準にするか
こういう判断は、
プラグインをいくら増やしても
勝手には手に入らない。
最初の一曲を、
無料の道具で、
自分の耳で決めきったこと。
それ自体が、次の曲に向けての
大きな「基準」になった気がする。
おわりに──完璧ではないけれど、今の自分の音
「Quiet Step」のミックスとマスタリングは、
プロの現場から見れば、粗だらけだと思う。
- 音圧も控えめ
- ベースラインもまだ探り探り
- ギターの余弦ノイズも残っている
それでも、再生ボタンを押す度に、
「ああ、これは今の僕の音だ」と思える。
二十年ギターを弾き続けたこと。
一か月、DTMにかじりついたこと。
2DKの部屋で、
音の粒をひとつずつ拾い上げた時間。
その全部が、この一曲に入っている。
次の曲を作るとき、
きっとまた、別の壁にぶつかる。
そのときにこのミックスの記憶が、
ひとつの「出発点」になればいい。
完璧を目指すより、
一曲ずつ、火を置くように残していく。
「Quiet Step」は、その最初の一歩だ。
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小さな感謝とともに、静かな旅をつづけています。──孤岳より
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