魂なき音楽に心が動いた──AIバンドThe Velvet Sundownが突きつけるもの

エッセイ|コラム

The Velvet Sundown──名前を聞いたのは、ほんの数日前だった。
「これ、AIで作られたバンドらしいよ」
友人にそう聞いて、なんとなく気になって、Spotifyで検索してみた。

再生したのは『Dust on the Wind』。
渋めのギターに、抜けのいい声。
「最近のバンドにしてはずいぶん雰囲気あるな」と思いながら聴いていた。

……気づいたら、にやけていた。
「これ、ほんまにAIなん?」って。
ちょっと悔しいくらい、よくできていた。


The Velvet Sundownとは何者か

The Velvet Sundownは、2025年にSpotifyで急速に広まった“存在しないバンド”だ。
実在のメンバーはいない。写真、声、歌詞、演奏──全てがAIによって生成されている。

ジャンルは、60~70年代のフォークロックをベースにした、浮遊感のあるオルタナティブ。
どこかで聴いたような、でも誰の音でもない。
整いすぎているのに、なぜか心地いい。

彼ら(あるいは“それ”)は、数曲のリリースだけで、月間リスナー数100万人を超えた。
Spotifyのアルゴリズムとも相性が良かったのだろう。
プレイリストに入れば、誰でも耳にする可能性がある。


それっぽさの完成度

ギターの音はやわらかく、空間を邪魔しない。
コード進行もテンションの入れ方も、センスがある。
ドラムやベースも無理せず、楽曲全体を整えている。

たしかに、どこかにいそうなプレイヤーのようだ。
でも「このギターは誰の音だ」と言えるような個性はない。

完璧すぎる。
ブレがない。揺れがない。
だけど、それが逆に「聴きやすさ」として成立している。


僕は、かっこいいと思った

正直、最初はもっと“作り物っぽい”音を想像していた。
でも、実際に聴いてみると驚いた。
自然なグルーヴと、耳に残るメロディ。音楽としての完成度は想像以上だった。

AIが作ったと知っても、「でも、かっこいい」と思った。
人間が作ったものにしか価値がないとは、思わない。
音楽は聴いた人の中で何かを動かすかどうか──それが一番大事だから。

それに、こういう“空気系”の音楽は、
むしろ“揺れのなさ”が求められる場面もある。
作業中のBGMとして、あるいは眠る前の1曲として。

そういう立ち位置であれば、
The Velvet Sundownの音楽は、十分に意味を持っている。


火のギターではなかった

でも、やっぱり何かが足りないとも感じた。
たとえば、ジョン・メイヤーやジョン・フルシアンテが弾くときの、
「弦を削ってる」ようなギターの熱。
あの、人間の迷いや衝動が滲み出るような音。

The Velvet Sundownのギターには、それがない。
あくまで空気。風景の一部として整っている。

それが悪いわけではない。
むしろ意図的に、そうデザインされているように思える。
楽曲を壊さず、雰囲気を崩さず、ただ漂うように音が置かれている。


表現者として思うこと

きっと、魂を削って音楽を作ってきた人たちからすれば、
こういう存在は、抵抗感のあるものだと思う。
努力や感情や苦悩のすべてが、数秒で模倣されてしまう。

でも、僕のようにまだ何者でもない人間にとっては、
AIは「敵」ではなく、「補助」になることもある。
誰にも見つけられなくても、誰にも知られなくても、
それでも表現を続けたい人にとって、
整える技術を持つAIは、ひとつの助けになる。

運や人脈やタイミングがものを言う世界で、
少しだけ、道を照らしてくれる光でもある。


結びに代えて

The Velvet Sundownの音には、たしかに“熱”はなかったかもしれない。
でも、そこにはちゃんと“意図”があった。
完璧に整えられた音を届けるという、一つの正解が。

それでも僕は、自分の手でギターを弾きたいと思う。
ミスしても、リズムが揺れても、それでも構わない。
その不完全さこそが、自分にしか出せない“僕の音”になると信じているから。


すべての記事は無料でお読みいただけます。

このリンクは「支援」のための入り口です。

小さな感謝とともに、静かな旅をつづけています。──孤岳より

※codoc(Stripe社提供)を利用しています。

コメント