静かに遡る
気づけば、誰かの顔色を見て、
空気を読んで、そんなふうに生きてきた。
でも、ほんまの俺はずっと、
どこか遠くで黙ってた。
ふとした拍子に、昔のことが胸をよぎる。
言葉にはならん、けど、確かにそこにあったものたち。
そんな昔話を、少しだけ。
自然に笑ってた頃
小学生のころは、ただ生きてた。
ゲームが好きで、絵も描いてた。
男と遊んで、女とも話して、誰の目も気にならんかった。
なんの努力もなく、そこに居場所があった。
自分らしくあろうなんて考えたこともない。
そうであることが当たり前やったから。
変わったのは中学
中学に入ったとたん、「選べないこと」が増えた。
運動部が強制で、逃げ場がなかった。
体育が嫌いとか、苦手とか、そういうのは理由にならん。
「みんなやってるんだから」って言葉で、
なんもできんまま、毎日放り込まれてた。
体は動かん。
声は出せん。
チームプレーも意味がわからん。
ただ、居心地が悪かった。
でも、それを言葉にできる知恵もなかった。
窓を叩いてた夕方
ある日、スピーチを書かされた。
クラス代表やからって理由で。
「おもろいやつやから頼むわ」って軽い感じで言われたけど、
おれはそんな器やなかった。
夕方、誰もいない教室で、ずっと机に向かってた。
何を書いていいかわからず、
紙に向かって、固まったまま。
時間だけが過ぎて、だんだん腹が立ってきた。
悔しくて、情けなくて、窓を叩いた。
叩いて、叩いて、泣きそうになった。
そこに、国語の先生が通りかかった。
「どうしたんや」って驚いた顔で声をかけてきた。
言葉にならんかった。
たぶん、救われたんやと思う。
ほんの一瞬だけ、自分がわかってもらえたような気がした。
拒否と、孤立と、自分
でも――それでも、もう無理やった
気づいたら、不登校になっていた。
もう限界やった。
できないことを「できるふり」してやるのがしんどかった。
みんなと同じ制服を着て、同じ時間に立つのが苦しかった。
「嫌です」って言えなかった自分が、
ある日、体を動かさなくなった。
周りは「なんで学校に来んのか」って顔をした。
家族も、先生も、友達も。
でも説明できる理由なんてなかった。
ただ、もう無理やって思っただけ。
通信に救われた
高校進学の話が出たとき、
「行けるとこないんちゃうか」って言われた。
笑えんかった。
でも、なんとか通信制に入った。
そこでは、変に頑張らんでよかった。
誰にも会わん日があってもよかったし、
課題が出せない時期があっても責められんかった。
何年もかかったけど、卒業できた。
人より遅れてたし、社会的には“普通”ではなかったかもしれんけど、
やっと”呼吸できる”
そんな気がした。
ポンコツ期
そのあと、バイトを点々とした。
飲食、営業、パチンコ屋、いろいろやったけど、全部すぐ辞めた。
怒られるのが怖いというより、
何をどうしていいかわからん自分が嫌やった。
天ぷら屋では、油を飛ばして先輩に怒鳴られた。
厨房で手が止まって、声が出なくなった。
ターミナルの操作も覚えられんまま、
「なんでこんな簡単なことができんのや」って
自分を責める時間ばっかり増えていった。
「俺はほんまに使えん人間なんやな」
何度もそう思った。
頭ではわかってても、体がついてこない。
気持ちも言葉も、どこかに隠れてた。
ギターだけは鳴っていた
それでも、ギターだけはずっと弾いてた。
誰かに褒められたわけでもない。
うまくなろうと思ってたわけでもない。
でも、手放したくなかった。
弦の振動が、少しだけ自分を戻してくれた。
音は嘘をつかん。
できんことばっかりの中で、
ギターだけは、少しだけ俺の手に馴染んでた。
まだ、始まってすらいなかった
この頃は、「自分」って呼べる何かがぼんやりしとった。
何がしたいのかも、どこに向かいたいのかも、
何を避けてるのかすら、言葉にならんかった。
ただ、誰かが敷いたレールに、無理やり立たされて、
うまく歩けなくて転んで、笑われて、
それでもどこにも行けんまま、立ち尽くしてた。
でも、そのどこにも行けんかった時間が、
今になって意味を持ち始めてる。
この“始まり”がなかったら、
今の俺は、たぶん鳴ってへんかった。
鳴らし始めた前夜
ギターの音だけが、静かに鳴ってた。
誰にも届かんような、小さな音やったけど、
それだけが、ほんとの「俺」に近かった。
これが、孤岳のふもと。
ここから、登っていく話をしようと思う
◇ 次の記事:📘 孤岳02|看護の道へ。“かっこいい”だけで飛び込んだ俺の話
逃げ出してもよかった。
でも俺は、逃げなかった。
“かっこいい”という曖昧な動機が、
俺の人生を少しずつ動かしていく。
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