富士山を登るということ──僕の初登頂と、安全への願い
まずは、亡くなられた方々に、深く哀悼の意を表したい。
僕が富士山に登ったのは2023年、吉田ルートからだった。
登山者の多くが最初に選ぶルートで、富士山の中でも比較的やさしいとされる道だ。
富士山は、日本に暮らす誰にとっても、どこか当たり前の存在だろう。
登山をしない人でさえ、「登山」と聞けば、まず富士山を思い浮かべる。
それくらい象徴的な山だ。
けれど、そんな富士山で、今年は去年の2倍にあたる9人が命を落としたという。
僕は専門家でもガイドでもない、ただの一素人登山者だ。
それでも、安全に登るということについて、伝えたいことがある。
吉田ルートの安全とその代償
今年、吉田ルートには新たに有料の入山制限がかかり、
夜間のゲート閉鎖などで夜間登山者の数も減った。
それによって、山梨側からの登山の安全性は、確かに高まったと感じている。
ただしその裏で、富士宮・須走・御殿場といった静岡側のルートに、登山者が流れた。
こちらは吉田に比べて難易度が高く、気象の変化も読みづらい。
静岡側の登山道は国有地であり、対策を取るには国との協議も必要になる。
つまり、安全対策を打つには、山梨側よりも高いハードルがあるということだ。
登山者がどこへ流れ、どんな判断をするか。
その先に、事故や判断ミスが起こるのだとしたら──。
ただルートを閉じればいいという話でもないのが、富士山の難しさなのだと思う。
富士山を「カジュアル」に登ることの危うさ
富士山には、年間およそ20万人が登るという。
この数字だけ見れば、観光地のように思えるかもしれない。
けれど、標高は3,766m──れっきとした高山だ。
実際、僕が登ったときにも、短パンにTシャツ、ビニールのカッパ姿の人や、
山小屋前で仮眠をとっている人を見かけた。
明らかに準備不足な装備で登っている人は、決して少なくなかった。
おそらく、「富士山くらいなら大丈夫だろう」という気持ちがあるんだと思う。
でもそれは、3000m級の山を甘く見ていると言わざるを得ない。
高山病は誰にでも起こりうる
僕自身、2000mあたりで頭痛と吐き気を感じた。
高山病は気圧の低下によって体に取り込める酸素が減り、
脳や身体が酸欠状態になることで起こる。
登山仲間が持っていたパルスオキシメーターで測ったところ、
僕の酸素飽和度は92%、同行者は86%だった。
これは医療現場なら酸素吸入を検討するレベルの数値だ。
高山病を予防するには:
- 5合目で1〜2時間滞在し、高度に身体を慣らす
- ゆっくりと、呼吸と歩行のペースを保つ
- 十分な水分を摂る
この3つが基本だと思う。
ただ、呼吸がすぐに乱れるから、実際は“やらざるを得ない”というのが本音だ。
症状が出たら、まずは止まって休む。
可能なら下山する判断も必要になる。
グループで登っていると、無理をしがちになる。
異変を感じたら、早めに伝える。仲間と共有する。
富士山には救護所もあるし、登山者も多い。不安を抱えたまま進むより、誰かに声をかけた方がいい。
高山病を甘く見ると、命に関わることになる。
脳浮腫や肺水腫といった重篤な症状も起こりうるのが、高所登山の現実だ。
夏山でも、低体温症は起こる
地上が30度でも、富士山の山頂は6度ほどになる。
実際、僕のチームでは体温が33度まで下がった仲間もいた。
これは立派な「低体温症」だ。
低体温は、汗や雨で濡れた身体が風にさらされることで発生する。
“気化熱”によって体温が奪われていくからだ。
特に、濡れたままの衣類に風が当たると、急激に冷えてしまう。
さらに、自律神経の乱れによって体温調節が効かなくなる。
ストレスや疲労で交感神経が優位になると、血管が収縮し、熱が逃げなくなる。
これもまた、低体温のリスクを上げる。
主な予防策はこうだ:
- 速乾性の高い肌着を着る
- 保温性のある中間着(フリースなど)を重ねる
- 防水・防風のアウター(レインウェア)を着る
これが、いわゆる「レイヤリング」というやつだ。
綿のTシャツなんかはNG。乾きが遅く、体を冷やすだけになる。
万が一に備え、エマージェンシーシートや、
温かい飲み物、着替えを持っておくのも大事だ。
富士山には山小屋もあるし、雨風をしのげる場所がある。
“助けを呼ぶ”という選択肢を忘れないでほしい。
登山は、準備が9割だと思っている
体力、装備、持っていく水の量、当日の行動計画。
考えるべきことは山ほどある。
今はネットで情報が簡単に手に入る。
「知らなかった」では済まされないことが多いからこそ、
自分で調べて、自分で考えて、登ってほしい。
登山は、美しく、魅力的な行為だ。
でもそれは、同時に“危険を伴うもの”でもある。
僕は、準備が9割だと思ってる。
きちんと装備を整えて、日常から体力をつけて、心構えを持って臨む。
それができて初めて、山は“応えてくれる”ものになると思う。
命を懸けるほどの冒険じゃない。
だからこそ、命を守れるだけの準備をしよう。
それが、僕が富士山に登って思ったことだ。
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